経営上の指標となる「資本」に関する概念整理
『三位一体の経営』を読んでるんだが、資本ホゲホゲとかROホゲホゲみたいな概念が多くで全然手触り感がない。
そこで、経営の基本となる5つの重要な概念について、ラーメン屋の例を使って整理してみる。(特段ラーメン屋である意味はない。全然ラーメン屋要素もないし。) あまり馴染みがないので難しそうに聞こえる「投下資本」「資本コスト」「資本生産性」「ROE」「ROIC」への解像度が少なからず上がるはず。
以前整理したPERの話も、相変わらず手触り感はないが、まずは言葉にしてみるのが大事だ。 というわけで本題に入る。
1. 投下資本:お店を始めるためのお金
まず、「投下資本」について考えてみる。これは簡単に言えば、事業を始めるために必要なお金のことである。 例えば、夢のラーメン屋を開店すると決めたとする。どのくらいのお金が必要だろうか。
- 自分の貯金(株主資本):500万円
- 銀行からの借金(借入金):500万円
合計で1000万円の資金を集めたとする。これをどう使うのか。
- 店舗の家賃:100万円
- 厨房機器:400万円
- 内装工事:300万円
- 食材や初期運転資金:200万円
この1000万円が「投下資本」だ。つまり、ラーメン屋を始めるために「投下」した資本なのである。
2. 資本コスト:お金を使うことで生じる費用
次に「資本コスト」についてだ。 これは、その投下資本を使うことで発生する「費用」のようなものだ。
- 自分の貯金500万円:もし銀行に預けていたら、年1%の利子がついたかもしれない。つまり、年間5万円の機会コストがある。
- 銀行からの借金500万円:年利3%で借りたとすると、年間15万円の利子を払う必要がある。
したがって、このラーメン屋の資本コストは年間20万円(5万円 + 15万円)となる。
投資家たちはこのラーメン屋を投資商品と見ているため、 つまり、このラーメン屋は1000万円の資本に対して、少なくとも年間20万円以上の利益を出さないと、投資した価値がないということになる。 お店を続けるためには、この資本コストを上回る収益を上げる必要があるのだ。
3. 資本生産性:投じたお金がどれだけ儲けを出しているか
「資本生産性」は、投下した資本がどれだけ効率よく利益を生み出しているかを示す指標だ。
例えば、このラーメン屋が1年間の営業で300万円の営業利益(お店の儲け)を上げたとする。 このときの資本生産性は以下のように計算できる。
資本生産性
= 営業利益 ÷ 投下資本
= 300万円 ÷ 1000万円
= 0.3
= 30%
この30%という数字は、投下した1000万円に対して、30%(300万円)の利益を生み出したことを意味する。
4. ROE(Return on Equity):自己資本利益率
ROEは、株主(この場合はラーメン屋の店主)が投資した資金(自己資本)に対して、どれだけの利益を生み出したかを示す指標で、以下のように計算できる。
ROE = 当期純利益 ÷ 自己資本
ラーメン屋の例でいうと
- 当期純利益(税引後利益):210万円(営業利益300万円 - 借入金利息15万円 - 税金75万円と仮定)
- 自己資本:500万円
であるため、
ROE = 210万円 ÷ 500万円
= 0.42
= 42%
この42%という数字は、店主が投資した500万円に対して、42%の利益率を達成したことを意味する。一般的に、ROEが高いほど、株主(店主)にとって投資効率が良いと言える。
5. ROIC(Return on Invested Capital):投下資本利益率
ROICは、企業が事業に投下した資本全体(自己資本+他人資本)に対して、どれだけの利益を生み出したかを示す指標で、以下のように計算できる。
計算式:ROIC = 税引後営業利益(NOPAT) ÷ 投下資本
ラーメン屋の例でいうと
- 税引後営業利益(NOPAT):210万円(営業利益300万円 - 税金90万円と仮定)
- 投下資本:1000万円
ROIC = 210万円 ÷ 1000万円
= 0.21
= 21%
この21%という数字は、ラーメン屋全体の事業として、投下した1000万円の資本に対して21%の利益率を達成したことを意味する。
5つの指標の関係性
これで、このラーメン屋に関する5つの重要な指標が揃った。それぞれの数値を並べてみよう:
- 投下資本:1000万円
- 資本コスト:2%(年間20万円)
- 資本生産性:30%(営業利益300万円 ÷ 投下資本1000万円)
- ROE:42%(当期純利益210万円 ÷ 自己資本500万円)
- ROIC:21%(税引後営業利益210万円 ÷ 投下資本1000万円)
これらの指標を比較することで、ラーメン屋の経営状況について以下のような洞察が得られる:
- 全ての指標が資本コスト(2%)を上回っており、このラーメン屋は投資価値があるといえる。
- ROE(42%)がROIC(21%)を大きく上回っている。これは、借入金(レバレッジ)を効果的に活用していることを示している。
- 資本生産性(30%)はROIC(21%)より高くなっている。これは、税金の影響を考慮するとROICが低くなるためだ。
- ROIC(21%)は資本コスト(2%)を大きく上回っており、ラーメン屋全体として効率的に利益を生み出していることがわかる。
- ROE(42%)の高さは、店主(株主)にとって非常に良好な投資リターンを示している。
まとめ
これら5つの指標を理解し、活用することで、ラーメン屋(あるいは任意のビジネス)の経営状況をより多角的に分析することができる。
- 投下資本と資本コストは、ビジネスを始める際の基本的な考え方を示す。
- 資本生産性は、投資した資金全体の効率を示す。
- ROEは、株主(オーナー)の視点から見た投資効率を表す。
- ROICは、ビジネス全体の資本効率を示す。