PBR・PER・ROE
バリュエーションの教科書を読んでる中で、PBRは、のれん(企業の価値のうち、具体的な資産や負債では説明できないもの)の創出力と表現されていて、さらに短期的な指標であるROEと、長期的な指標であるPERの掛け合わせによって表現できるという話があった。
相変わらず、手触りがないので性懲りもなく、それぞれの指標の定義と意味をシンプルに整理を試みる。
1. ROE(Return On Equity:株主資本利益率)
定義(計算式)
ROE = 純利益 ÷ 株主資本 × 100(%)
簡単に言えば「株主からもらったお金でどれだけ儲けを出せたか」を示す割合だ。
具体例
株主資本1億円の会社が、1年間で1,000万円の純利益を上げた場合:
ROE = 1,000万円 ÷ 1億円 × 100 = 10%
株主が出資した1億円で10%の利益を生み出したことになる。
何を意味するのか
ROEは「お金の効率」を表す。高いROEは、少ない資本で多くの利益を生み出していることを意味する。投資家にとって、出資したお金がどれだけ効率よく働いているかを示す重要な指標だ。
見るときのポイント
- 高いほど良い:一般的に、ROEが高いほど資本効率が良い
- 業界比較:同じ業界の会社同士で比べるのが有効
- 持続性:一時的に高くても維持できなければ意味が薄い
2. PER(Price Earnings Ratio:株価収益率)
定義(計算式)
PER = 株価 ÷ 1株当たり純利益
または会社全体で見ると:
PER = 株式時価総額 ÷ 純利益
具体例
1株の純利益が50円で、株価が1,000円の場合:
PER = 1,000円 ÷ 50円 = 20倍
これは現在の利益が続くと仮定して、投資金額を回収するのに20年かかることを意味する。
何を意味するのか
PERは「株価の割高・割安」を測る物差しだ。利益に対して株価がどれだけついているかを示す。高いPERは「将来の成長に期待」されている証拠とも言える。
見るときのポイント
- 相場水準:一般的に10~20倍程度が平均的な水準
- 成長期待:高いPERは将来の成長期待を反映している
- 業種差:IT企業は高め、公共企業は低めなど業種で傾向がある
3. PBR(Price Book-value Ratio:株価純資産倍率)
定義(計算式)
PBR = 株価 ÷ 1株当たり株主資本
または会社全体で見ると:
PBR = 株式時価総額 ÷ 株主資本
具体例
1株あたりの株主資本(簿価)が800円で、株価が1,600円の場合:
PBR = 1,600円 ÷ 800円 = 2倍
これは市場が会社の資産価値の2倍で株を評価していることを示す。
何を意味するのか
PBRは「資産価値に対する市場評価」を表す。会社の帳簿上の価値(簿価)に対して、市場がどれだけの価値を認めているかを示す倍率だ。
見るときのポイント
- 1倍が基準:理論的には、PBR=1が資産価値と株価が等しい状態
- 1倍超:ブランド力や技術力など、帳簿に載らない価値への評価
- 1倍未満:将来的な資産価値の低下が懸念される状態
- 業種特性:製造業は低め、IT企業は高め傾向
3つの指標の関係
これら3つの指標には、次のような関係がある:
PBR = ROE × PER
この関係式は各指標の定義から直接導くことができる:
- ROEの定義:
ROE = 純利益 ÷ 株主資本
- PERの定義:
PER = 株式時価総額 ÷ 純利益
- PBRの定義:
PBR = 株式時価総額 ÷ 株主資本
これらを組み合わせると:
ROE × PER
= (純利益 ÷ 株主資本) × (株式時価総額 ÷ 純利益)
= (純利益 × 株式時価総額) ÷ (株主資本 × 純利益)
分子と分母の「純利益」が相殺されるため:
ROE × PER = 株式時価総額 ÷ 株主資本 = PBR
このように、PBR = ROE × PERを表現可能になる。
この式は非常に重要な意味を持つ。すなわち:
- PBR(株価資本倍率)は、ROE(資本収益率)とPER(株価収益率)の積である
- 市場が企業の資本をどう評価しているか(PBR)は、資本効率(ROE)と利益に対する市場評価(PER)の掛け合わせで決まる
- 高いPBRを正当化するには、高いROEか高いPER(成長期待)が必要である
時間軸で見た3つの指標
この関係式は時間軸でも解釈できる:
- ROE:現在から直近の過去の収益性を表す「短期の評価」
- PER:将来の成長可能性を織り込んだ「中長期の評価」
- PBR:短期(ROE)と中長期(PER)の評価を総合した「総合的な企業価値評価」
つまり、PBRは過去の実績(ROE)と将来への期待(PER)の積として、企業の総合的な価値を表している。
例:
ある会社の情報
- 株式時価総額:1,000億円
- 株主資本:500億円
- 純利益:50億円
計算すると
- ROE = 50億円 ÷ 500億円 = 10%
- PER = 1,000億円 ÷ 50億円 = 20倍
- PBR = 1,000億円 ÷ 500億円 = 2倍
関係式を確認
PBR = ROE × PER
2倍 = 0.1 × 20倍
2倍 = 2倍
PBRとのれんの関係
PBRが1を超えるということは、企業の純資産(帳簿価額)を超える価値を市場が認めていることを意味する。この超過部分は、会計上は認識されていない「のれん価値」と考えることができる。
例:
- 株主資本:100億円の企業
- 時価総額:200億円(PBR=2)
- のれん相当額:100億円(市場が評価する超過価値)
のれんに含まれる要素
市場が評価する「のれん」には、以下のような要素が含まれる:
- ブランド価値:消費者からの信頼や認知度
- 技術力・ノウハウ:特許化されていない技術や経験知
- 人的資本:従業員の能力や組織文化
- 顧客基盤:安定した顧客関係
- 将来の成長期待:新規事業の可能性など
投資判断への活用
PBRを「のれん」の観点から見ることで、投資判断が深まる:
- 高PBR企業:無形資産の価値が高く評価されている(リスクと可能性の両面あり)
- 低PBR企業:有形資産の価値が主体で評価されている(安定性と成長制約の可能性)
優れた経営陣やブランド力を持つ企業は、PBRが高くても合理的な場合がある。逆に、衰退産業の企業はPBRが低くても割高な場合もある。
このように、PBRを「のれん」という観点から分析することで、単なる数値比較を超えた、より深い企業価値評価が可能になる。
まとめ
- ROE:「投資効率」を測る指標。資本をどれだけ効率的に使って利益を出しているか。
- PER:「株価の割高・割安」を測る指標。利益に対して株価がどれだけ高いか。
- PBR:「資産価値の評価」を測る指標。帳簿上の価値に対して市場評価がどれだけ高いか。
これらの指標は単独でも有用であるが、組み合わせることでより総合的な判断ができる。業種や企業の特性を考慮しながら、これらの指標を活用することで、投資判断の質を高めることができる。
(おまけ)不動産投資にも応用できる
これらの指標は株式だけでなく、不動産投資にも当てはめることができる:
例:マンション投資の場合
- 物件価格:5,000万円
- 頭金(自己資本):1,000万円
- 年間純利益:80万円
計算すると
- ROE = 80万円 ÷ 1,000万円 = 8%
- PER = 5,000万円 ÷ 80万円 = 62.5倍
- PBR = 5,000万円 ÷ 1,000万円 = 5倍
これは株式投資に比べて、物件の投資回収期間が長いことを示している。