調査設計の型をつくる


企業向けにデータ分析のレポートを作る仕事をしている。

最初の頃は、クライアントから「〇〇について調べてほしい」と言われたら、とりあえずデータを集めて分析して、見つかったことをレポートにしていた。

これだと品質がブレる。同じテーマでも、切り口次第で全然違うレポートになる。属人的だし、再現性がない。

そこで、調査設計のフレームワークを整理した。

「知りたい」は、そのままでは調査できない

クライアントが言う「〇〇について調べてほしい」は、問いとしてまだ粗い。そのまま調査に入ると、データを集めたはいいけど「で、何が分かったんだっけ?」となる。

まず「知りたい」を分解する必要がある。分解の軸は3つある。

1. テーマの性質を見極める

調査テーマは、大きく「ポジティブなニーズ」と「ネガティブなニーズ」に分かれる。

ポジティブなニーズは「もっとこうしたい」という欲求だ。おしゃれにしたい、趣味を楽しみたい、心地よくしたい。こういうテーマは人によって方向性がバラバラで、細分化しやすい。

ネガティブなニーズは「これを何とかしたい」という課題だ。片付けが大変、時間がない、不安がある。こういうテーマは多くの人に共通するから、大きなトレンドになりやすい。

テーマがどちらの性質を持つかで、分析の組み立て方が変わる。ポジティブ系ならセグメントを切って多様性を見る。ネガティブ系なら共通課題の規模感を測る。

2. データで分かること / 分からないこと

ここが一番大事かもしれない。

どんなデータにもバイアスがある。たとえばSNSデータは、投稿する人の行動しか見えない。投稿する人は全体のごく一部だ。だから「SNSで話題だから市場が大きい」とは言えない。

一方で、検索データは「投稿しない人」の関心も拾える。アンケートは直接聞ける代わりに、質問の設計に左右される。

調査設計の段階で「このデータソースで、問いのどこまでが答えられるか」を明確にしておく。答えられない部分は「分からない」と正直に書く。ここを曖昧にすると、レポート全体の信頼性が下がる。

3. 誰のデータなのか

同じデータでも、それが先進的なユーザーのものか、一般的なユーザーのものかで、解釈がまるで変わる。

先進的なユーザーの行動を見て「みんなこうしている」と書いたら、それは嘘だ。「一部のユーザーでこういう動きが始まっている」と書くべきだ。

逆に、先進層の行動は将来のトレンドを先取りしていることが多い。だから「今は少数派だが、この動きは広がる可能性がある」という示唆が出せる。

データの出所を意識するだけで、レポートの誠実さが変わる。

調査設計で勝負が決まる

フレームワークを整理してみて、一番感じたのは「調査の品質は設計段階で決まる」ということだ。

データを集めてから「何が言えるかな」と考えるのは、順序が逆だ。まず「何を明らかにしたいか」を定義して、「それを明らかにするために何のデータがどれくらい必要か」を設計する。その設計がしっかりしていれば、分析は手順通りに進む。

逆に設計が曖昧だと、データを眺めて「なんとなく面白い発見」を拾い集めることになる。面白いけど、クライアントの課題に答えていない。そういうレポートは、読んだ人が「で、うちは何をすればいいの?」となる。

前に書いたイシューツリーの話と同じだ。解ける形に問いを分解しないと、答えが出ない。

型があると、判断が速くなる

フレームワークを作ると「型にはめている」と感じるかもしれない。でも実際は逆で、型があるからこそ考えるべきことに集中できる。

「このテーマはポジティブ系だから、セグメント間の違いを丁寧に見よう」 「このデータは先進層のものだから、一般化には留保が要る」 「検索データを見ないと、潜在ニーズの規模感が分からない」

こういう判断が、フレームワークに沿って自然と出てくるようになる。毎回ゼロから考えなくていい。

型は思考を省略するものではなくて、思考を正しい方向に導くガイドレールだ。