『組織デザイン』を読んだ
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この問題に対する対応策は、基本的には三つある。 まず第一に、個々の作業工程の変動性を小さくすることである。 たとえば作業手順の標準化を詳細に推し進めたり、また労働者の教育(インプットの標準化)を行ったりすることで、できるだけ同じ数量を安定して生産できるようにするのである。また生産技術に関する研究開発を進めたり、製品設計を見直したりすることで、変動性を低く抑えることが可能な場合もある。 二つ目の解決策は、もともとの分業方法を見直して、順序的な相互依存関係を弱めることである。 直列的に連結する部分が長くなるほど、この遅れの累積という問題が深刻になるのだから、直列を短くする努力を行うのである。 たとえば、これまで複数の工程に分けて実行してきた作業をいっぺんに処理できるような機械化を進めるなど、順序的な相互依存関係にある別々の工程の数を削減するのである。 第三の解決策は、先頭の工程から最終工程にかけてフラットに生産能力をバランスさせるのではなく、尻上がりに「バランス」させることである。 前工程の遅れを後工程がキャッチアップできるようにすれば、遅れの累積を起こさないで済む。 生産能力が後工程に行くほど徐々に高まっていくようにするとか、最終工程の生産能力を非常に大きくするのである。
スループットを最大化するためのボトルネック
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結局のところ、事前の調整手段である標準 化は、予想 可能な世界の中で有効であり、世の中で発生する事態が予想不可能になっていくにつれて事前の調整手段は機能しにく くなり、事 後的な調整手段が必要になっていく。 予想できる世界というのは確実 性の世界 であり、予想できないことが起きる世界は不確実性の世界である。 したがって、不確実性が高ければ高いほど、標準化の有効性が低下し、事後的な調整手段の必要性が増すのである。
業務プロセスだけではなく、意思決定も同じ。
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監督とか、リーダーとか、管理職、経営者など、多様な名前で呼ばれるが、この事後的な例外処理を通じて調整を達成する手段がヒエラルキーなのである。
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優秀な管理者の例外処理能力がボトルネックなのだとすれば、前章のボトルネックに関するえてくるはずであ議論をメタファーとして思い浮かべることで、いくつかの具体的な手段が見る。 これらの手段は基本的に三種類に分けられる。 すなわち、 (1)判断能 力のある下位階層の構築 (2)管理者の例外処理能力の開発 (3)管理者の例外処理能力を補強する構造の構築 の三つである。
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グルーピングの原則
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ヒエラルキーはまず第一優先順位の相互依存関係をグルーピングし、そのうえで第二優先順位の相互依存関係が次に緊密に相互調整しやすいようにグルーピングする、という順序で複数の階層をもって形成されていくのである。 これまでの議論を要約しておこう。 ①潜在的相互依存関係 分業によって成立した個々の職務は、潜在的に複数の相互依存関係をもっている
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このような準分解可能システムは、一カ所でミス を 起こしても、全体に対して致命的な損害を与えることがない。 逆に準分解可能ではないシステムの場合、1ヵ所のミスが全体に破壊させる可能性が高い。 したがって、「ミスが許容される組織」を作るためには、組織は準分解可能システムとして設計されなければならない。
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そもそも管理階層は直接生産に携わるのではなく、直接生産活動を行っている人々の調整を職務としている。 それ故に管理の仕事に携わる人々の数が増えれば、その分だけムダが増えることになる。
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連絡会はしばしば形骸化する。 過剰なほど人数が増えたり、不要になっても連絡会が存続してしまうことで、実質的に機能しない会合へと堕落するのである。 たとえば、連絡会に参加したメンバーがそこで得られた情報の重要性に感動し、「これほど大事な情報が得られるなら、あの人も呼んだ方がいい」と主張し始める。 このような提案に応えていくと、いつの 間にか連絡会を構成する人数が増えてしまい、ホンネで語ることのない、形式的な会議に変質してしまう。 連絡会がいかに効果的であっても、その効果は参加人数が少なく、ホンネの議論ができるから生まれているのであることには注意しなければならない。
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実際には不要な情報でも、その会合でしか得られない稀少な情報を手に入れた人 は、その情報が重要だと思い込むことがある。 しかし、組織のパフォーマンス向上と関係のない情報のやりとりが行われる会合は、実質的な意義を失い、儀式として存続していくことになる。 儀式として行われる会合は、奇妙な権力の温床になって組織のパフォーマンスにマイナスの影響を及ぼす可能性が高くなるので、注意が必要である。 連絡会を設立する時に、小人数にとどめ、存続期間の見直しを常に心がける必要がある。
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マトリクス組織は、まさにこのバランスを組織構造的に実現しようという意図の下に設計されたものである。 マトリクス組織を採用すれば、今回は製品・市場への適応を優先するべきか、それとも機能部門における蓄積や資源の有効利用を優先するべきか、という問題が機能部門長と製品・市場マネジャーの間の組織内コンフリクトとして表出されるはずだからである。 マトリクス組織の問題点は、まさにこのコンフリクトの解消方法にある。 たしかにマトリクス組織は、バランスをとるのが困難な二つの課題を組織構造に体現させ、コンフリクトとして表出させる仕組みではあるが、その解決まで保証しているわけではない。 構造的に表出されるコンフリクトを解消できて初めてマトリクス組織は機能するのである。
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本来的には組織内での問題解決活動は、人間が話し合い、頭で考え、決定することで遂行される。 組織形態そのものが問題を解決してくれることはない。 複雑でエレガントな組織を設計してしまうと、「最後に決めなければならない人」が誰であるのか不明確になり、かえって組織内の意思決定が遅くなるのかもしれない。